「今週もバタバタしていたのに、振り返ると何が前に進んだのかよく分からない」
——忙しさの割に手応えがない。そんな感覚を抱えている方は、意外と多いのではないでしょうか。
私はもともとエンジニアで、いまはPMとして営業支援や要件定義を担当しています。PMの仕事は、会議、調整、資料づくり、確認の連絡と、やることが次々に湧いてきます。どれも必要そうに見えるので全部に手を出し、結果として「頑張ったけど、何が効いたのか説明できない」状態になりがちです。
そんなモヤモヤを整理するきっかけになったのが、安藤広大さんの『数値化の鬼』でした。以前紹介した『リーダーの仮面』と同じ著者による一冊です。今回は、読んだなかで特に印象に残った「変数を絞る」と「行動量を数字にする」の2つを中心に紹介します。
『数値化の鬼』とは? 基本情報と特徴
- 著者:安藤広大(株式会社識学 代表)
- 出版社:ダイヤモンド社
- 発売:2022年3月
- ページ数:288ページ(単行本)
- 価格:単行本1,870円(税込)※2026年9月時点。電子書籍版もあり、Kindle版はセール等で価格が変わることがあるため購入前の確認がおすすめ
- 内容:組織運営の理論「識学」をベースに、仕事ができる人に共通する思考法として「数字で考える」ことを、行動量・確率・変数・長期視点などの切り口で解説
要するに、「気合いや感覚ではなく、数字というモノサシで自分の仕事を客観視しよう」という一冊です。出版社の内容紹介にある「数字がすべてではない。ただ、数字を無視して成長した人は誰1人としていない」という一文が、全体のトーンをよく表しています。
PMの仕事に効いた3つのポイント
1. 追いかける変数は「片手」で足りる(真の変数)
一番大きかったのがこの考え方です。本書では、目標に対して影響を与える要素を「変数」と呼び、そのなかから「自分が変えられる変数」を見極めることが大切だと説きます。さらに、あれもこれもと管理するのではなく、本当に結果を左右する「真の変数」に絞り込む。管理できるのは片手で収まる5つ程度まで、という目安も示されています。
PMの仕事に置き換えると、これはかなり耳が痛い話です。プロジェクトが遅れる理由を挙げれば、顧客の判断が遅い、他部署のリソースが足りない、仕様が途中で変わる……といくらでも出てきます。ただ、その多くは自分では直接動かせません。
システムで言えば、監視項目を何百個も並べたダッシュボードのようなものです。全部を見ようとすると、本当にアラートを出すべき指標が埋もれてしまう。「自分がコントロールできて、結果に効くもの」だけを数個に絞るほうが、判断はずっと速くなります。

2. 目標を「行動の回数」に落とす
もう1つ印象に残ったのが、行動量を数字にするという話です。結果そのものがすぐに数字で表せない仕事でも、そこに至る行動を「何回やったか」という数に置き換えれば、自分の動きを客観的に振り返れるようになります。そのうえでPDCAを回していく、というのが本書の基本姿勢です。
PMの仕事は、成果が「プロジェクトが無事に進んだ」という形でしか見えにくく、日々の頑張りが数字になりにくいところがあります。だからこそ、「顧客への確認を何回入れたか」「提案を何本出したか」のように、自分の行動を数で数えられる形にしておく意味がある。エンジニア的に言えば、「なんとなく重い気がする」ではなく、リクエスト数やレスポンスタイムを計測してからチューニングに入る感覚に近いと感じました。
3. 「頑張った感」と「前に進んだか」を切り分けられる
2つを組み合わせると、冒頭のモヤモヤの正体が見えてきます。変数を絞らないまま行動量だけ増やしても、忙しさは増えるのに成果にはつながりにくい。逆に、真の変数に対してどれだけ行動したかを数えていれば、「今週はここに何回手を打った」と具体的に振り返れます。忙しさを成果と取り違えないための物差しが手に入る、というのがこの本の一番の価値だと思います。
そのまま現場に持ち込むと危うい点
本書は識学の考え方がベースなので、主張はかなり割り切っています。「とにかく数字」「行動量を増やせ」というメッセージを言葉どおりにチームへ持ち込むと、ノルマを押し付けられているように受け取られるおそれがあります。
また、要件定義や調整が中心の仕事は成果を数字にしにくいため、どの行動を数えればいいのかを自分で翻訳する必要があります。何でも数字にしようとすると、今度は計測すること自体が目的になりかねません。本書の終章でも「数値化の限界」が語られており、数字はあくまで客観視のための道具として使う、という距離感が大切だと感じました。
【Tips】読んだ内容を明日の仕事に落とし込むなら
いきなり全部を数字にしようとせず、まずは小さく試すのがおすすめです。
【PMが今日から試せること】
- 担当プロジェクトの遅れの原因を書き出し、「自分で変えられるもの」に印をつける
- 印のついたものから、結果に効きそうなものを5つ以内に絞る
- 絞った変数ごとに「今週何回やったか」を数えられる行動を1つ決める
- 週末に回数を振り返り、効いていない行動は翌週に入れ替える
まとめ:1,870円で「忙しいのに進まない」を抜け出す物差し
『数値化の鬼』は、数字で人を追い詰める本ではなく、自分の仕事を客観的に見るための物差しを手に入れる本です。特に「真の変数を片手で数えられる数に絞る」「行動を回数で数える」という2つは、職種を問わず応用しやすい考え方だと感じました。
単行本1,870円(※2026年9月時点)で、忙しさと成果を切り分ける軸が手に入ると考えれば、十分に元が取れる投資です。『リーダーの仮面』がチームの動かし方を見直す本だとすれば、こちらは自分自身の動き方を見直す本。PMやリーダーとして「頑張っているのに手応えがない」と感じている方は、一度手に取ってみてください。

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